ゴンドラの暗号
推理小説や探偵モノアニメで被害者が絶命する間際、犯人に繋がる情報などをこっそりと残す「ダイイングメッセージ」
犯人の名前をなんらかの記号にして書き残したり、近くにあるものを掴むなどして犯人を暗示したり、発見者にごく短い言葉を言い残し息絶える、などその方法は様々であるが、被害者が瀕死の重傷を追っていることからメッセージを残す手段や時間が限定されることや犯人がメッセージに気付く可能性があることなどから、ダイイングメッセージは暗号のような作りになっていることが多い。
フィクションであればこの暗号を手がかりに主人公たる人物や体は子供頭脳は大人な人が謎を解いていく。
こういった物語を見ていると
「いやいや、メッセージ残す暇あるなら救急車呼べよ」
「死ぬ寸前にそんな余裕あるわけない」
といった元も子もない批判をよく耳にし、つまるところダイイングメッセージとは小説や漫画の世界だけの話なのだと思いがちなのだが、ところがどっこい現実の世界でも被害者がダイイングメッセージを残した事件はいくつか実在するのだ。
ダイイングメッセージというものが空想だけのモノではないと知った時、私はある出来事を思い出す。
あるスキー場で私は暗号のようなものを見かけたことがある。
それはゴンドラ内の窓に書かれていたのだが、その時の私はその暗号をただの落書きだと思っていた。
しかし今にして思えばその暗号はダイイングメッセージだったのではなかったのかと思う。
なぜならそのメッセージは落書きにしてはあまりに高度な暗号を用いて書かれていたからだ。
ただただ遊びにきただけの客があのような暗号を残す必要性もないだろう。
ではなぜあのような暗号を残す必要があったのか。
それは何か重大な事実を誰かに伝えようとしたからであり、さらにはその事実を電話などで悠長に伝える暇がないほど切迫した状況に本人はあったということだ。
ゴンドラといえば密室であり、密室といえば殺人事件。
すなわちあの暗号はダイイングメッセージ以外には考えられないのだ。
しかし当時の私はその意図を汲み取れず、スルーしてしまった。申し訳ないのと同時に仕方がなかったとも思う。
なぜなら死体がなかったのだから。
犯人の周到な工作によってそこに死体はなかったが、ダイイングメッセージは残っていた。
そしてそれを私が見つけたが、ダイイングメッセージなど小説だけの話だと思っていた私は落書きだと思い込みスルーしてしまった。
しかし、ダイイングメッセージが空想だけのものではないと知った今、あのゴンドラに残されたメッセージは被害者の最後の叫びだったと確信がある。
ただここで問題なのは、
私は探偵でもなければ、体は子供頭脳は大人というわけでもない
ということだ。
つまり、
私にはあのダイイングメッセージの謎を解くことはできない。
これでは犯人は永久に特定されず、被害者の無念が晴らされることはないだろう。
そこで、当時写真に収めたダイイングメッセージをここで公開しようと思う。