プロスノーボーダーを目指す人の7ステップ
「職人」とは自ら身につけた熟練の技術によって物を作り出すことを職業としている人達のことである。
工業製品や伝統工芸品に限らず、大工や料理人、芸術家、美容師、落語家などの芸能関係に至るまで、熟練の技術を獲得した者はある種の職人であり、高い技術を持つスポーツ選手などもそれにあたる。
常人では成しえないパフォーマンスを魅せるプロスノーボーダーも職人と呼んで差し支えないだろう。
職人とまで呼ばれるようになるには当然ながら日々の研鑽と圧倒的努力が必要であり、一朝一夕でその技術を習得するのは困難だ。
職人の世界でよく語られるのは長い下積みについてだが、例えば寿司職人だと「寿司を握れるようになるまで10年かかる」などと言われる。
10年。
寿司職人を志し弟子入りしたのに10年寿司を握らせてもらえない。
もはや寿司屋設定の弟子入りプレイを提供するSMクラブなのではないかとさえ思ってしまうが、脈々と受け継がれてきた伝統文化の重みを知らない者には理解し得ない部分もあるのかもしれない。
では、スノーボードの職人とも言えるプロスノーボーダーを目指す場合はどのような下積みが必要なのか。
今、プロを目指そうか悩んでいる方にプロスノーボーダーになるための下積みをご紹介しよう。
これからどんな下積み時代が待ち受けているのかしっかり理解した上で、その覚悟があるのかどうかご自身で見極めてほしい。
ステップ1 『弟子入り』
まず、プロスノーボーダーを目指す者は師事するべき師匠を探し、弟子入りしたい旨を伝える。
そして断られる。
弟子入りを志願する際は一旦断られるのが職人業界では通例となっており、そこで諦めてしまうような者はプロなど到底なれない。なので断られても面倒くさがらず、何度も師匠に頭を下げるのがお約束になっている。
通常は、雨の中で三日ほど師匠の自宅前で待ち続けるなど、必死な姿勢をアピールしておけばオッケーが出るだろう。寒いのでホッカイロを多めに用意しておくのが良い。
ステップ2 『雑用』
どんな職種であれ「雑用」からスタートするのが職人業界の習わし。
当然ながらスノーボーダーもここからスタートすることになる。
ではスノーボーダーにおける雑用とはどんなものがあるのかというと、
・師匠のリフト券を買う
・師匠の宿の予約
・レストランで師匠の席を確保した後、板がパ クられないように見張る。
など、師匠の身の回りのお世話がメインになる。
ちなみにこの時点では滑るどころかスノーボードの道具に触れることすら許されない。当然だ。弟子入りしたばかりの新人は剥がし終わったスノーボードワックスのカス以下なのだから。
師匠が滑っている間はリフト乗り場で直立不動で待機する(師匠指定のジャージ着用)
雑用はだいたい3シーズンほど勤めると次のステップへ進めることが多いようだ。
ステップ3 『ワックス掛け』
それまでの雑用に加え、師匠の板にワックスをかけることが許される。ここでようやくスノーボードに触れることが許され、道具への理解を深めることができるのだ。また弟弟子への教育係を担うこともある。そして当然だがまだ滑ることはできない。
ステップ4 『脱着』
ワックス掛けを2シーズンほど任されれば、いよいよ雪の上に立たせてもらえるようになる。平らなところでビンディングの脱着である。着けたり外したりをひたすら繰り返す。この動きを2シーズンほどかけて身体で覚え師匠のお眼鏡に叶えば、弟子入りから足掛け7年ついに「滑走」のステップへ突入だ。
ステップ5 『リフト乗車』
「滑走」への大事な前段階、「リフト乗車」。
ステップ2でリフト乗り場に立ち続けた経験がここで活きる。様々なリフトの形状、乗り方を乗り場のスタッフ並に見て目に焼き付けてきたことで、難なく乗車できるはず。
下積みは裏切らない。
ただし、、、
ステップ6 『リフト降車』
降車するところは見たことがないため、戸惑い、パニックを起こすかもしれない。
しかし、これは師匠からの試練の一つとも言える。下積み期間で何を学んだのか、与えられた課題だけを消化していたのか、試されているのだ。
プロになれるかどうかの大きな分岐点、腹をくくってリフトから立ち上がろう。
最終ステップ 『木の葉滑り』
リフト降車という大きな山を越えたら、7年間待ちに待った「滑走」だ。と言っても、やはり職人への道のりは甘くはない。ここから「木の葉滑り」が3シーズンほど続く。
そして木の葉滑りが師匠に認められると同時に、あなたは一人前として認められ、ジャージの代わりに念願のウェアを着ることが許されるのだ。
弟子入りから約10年。プロスノーボーダーになるための下積みは終わり、ここから「本当のプロ」になるべく突き進んでいく。これからはたった一人での戦いになるが、下積み時代の経験がきっとあなたを助けてくれることだろう。
これからプロスノーボーダーになりたいという若い人たち、君達にこの辛い下積みを乗り越える覚悟があるかどうか。もう一度自分の胸に聞いてみてほしい。